奥田達朗氏がさまざまな研究制作をしておりました時、真清田神社(愛知県一宮市)に調査に行き、許可を得て採寸させていただいたと聞いています。室町時代制作のものということだったそうですが、伝来は明らかではなく、供え物用ではなく什器の中の一つとして伝わったものと考えられています。
滋賀県のMIHO美術館で根来展がありました時、真清田神社の本歌が出ていました。しっかりした塗りにしばし見とれてしまいました。
その後、奥田志郎さんからも電話があって、久し振りに塗ったものを出してみられて「この朱の折敷は最高ですね。自分で言うのも何ですが」と常に謙虚な奥田さんが感にたえた様におっしゃっていました。私も、塗られて三十年ほど経過したこの折敷は無類の美しさだと思っています。寸法もこれ以上ないバランスで、のせたものの価値が上がるものだと自信を持っておすすめするものです。
この度、能登震災後取り出せたものの内、これまでお見せしていた朱と黒の他に潤色があり、三十年を経て真塗の光沢は極まっていると思います。一度お手に取っていただきたく思います。
輪島の銘工房・尚古堂さんに、美しい形の平椀を新しく作っていただきました。尚古堂さんは輪島塗の技術をきっちりと守られた上、独自の形を次々と送り出され、日本産の良い漆を使った数少ない作者です。品質の良さは定評のあるもので、ようびではこの三十年位の間にたくさんのものを作っていただいています。
箔絵のもみじは随分以前、兄 野田行作の意匠を山本哲さんにお願いしてお椀にアレンジして下さったものを、今一度お願いしました。やはり季節感のあるものは新鮮です。これからのもみじの季節、そして青もみじの季節にもよろしきものと思います。
お正月のありようも年々変わって参りましたが、新しい年にこもごもの夢や現実の期待を託してお祝をする習慣は、いつまでも残してゆきたい日本人が持っているよきアイデンティティーです。
毎年のようにコーディネートをさせていただきながら「よくこんなにもさまざまな致し方があるものよ」と思います。要するに寿ぐ気持ちさえあれば次々といろんなものが寄り添って来るのです。今年は早々と正木さんが鳳凰紋の皿をようびのお客様のためにと作って下さいました。奥田志郎作の朱真清田の膳にぴったりでした。市松の重はこれも早く準備して山本哲さんに箔を貼っていただきました。
明るくきらきらした一年であっていただきたいと祈りつつ。