ある画家のお宅で、天啓時代の網の小振りの汲出でお茶をいただいたのは随分昔のことになりますが、何も解らないまま「天啓時代のものす」と教えていただいたのと、その形の良さをとても印象深く覚えておりました。
それから数十年を経て、京の骨董屋さんでこれと同じものを見つけて購入し、いろいろの作家さんに写しを作っていただき今日に至ります。
同じ明の古染付と思われるものの中でも、宣徳や成化といった隆盛を極めた時代の様に材料もよく時代の力も充実した時代とは違って、天啓という時代は長く続いた明が衰えて行く時代のたった七年の間。どこか自由で大らかな雰囲気と共にそのあわれを象徴するように思えるのです。
この汲出は高台が小さく腰が上がっていて優美な形をしています。本歌は(酒器だったと思われます)もう少し小さく底が分厚くどっしりとしていますが、底を薄くしてお茶が入りやすくしてあります。
この度は阪東晃司さんの作品です。素地もさまざま吟味していただきました。網文は天啓時代によく使われている網です。よく特長を捉えていて下さって、私の思い入れも深く、ずっと大切に作っていきたいと思うようびの大切な商品の一つです。