もくもくの小野さんとのおつき合いは、大原美術館の前でござを敷いて、ご自身で作られた竹のカトラリーを一本ずつ売られているところに偶然出会わしたのがきっかけです。
その頃の小野さんは、いわゆる「ヒッピー」で、決まった住まいもなかったそうです。材料の竹もおそらくどこかで分けてもらったものだったかもしれません。でも、ちょうどスプーンなどの小物を探していた店主は、目の前に売られているもののたしかさを一目で気に入り、いきなり百本ものオーダーをしたそうです。
「どこのおばさん?!」。小野さんも見ず知らずの人からの大量発注には驚いたことでしょう。でも、とても素敵な出会いとなりました。繊細で温かみのあるカトラリーが誕生しました。「ようび」のオリジナルとして、具体的にサイズの指示は出すものの、その造形的な美しさは、小野さんのセンスのよさそのものです。つきあいが長くなるにつれ、小野さんのカトラリーはますます洗練されてきています。
小野さんは、以前より身障者の方達の施設に、漆のカトラリーを寄付されています。金属のスプーンなどとは違い、扱いも易しく、口の中に入れても危険じゃないからです。
目に優しく、体に易しいカトラリー。赤ちゃんの口に持っていっても、いやがらないことはよく知られています。
実は、小野さんは、岡山の出身で、「備前漆」の再興に燃える志の高い方です。漆器を備前で作るだけではなく、備前の地で漆を育て、その漆で作品を作ることに情熱を傾けておられます。