ドイツの伝説的名テノール、ヘルマン・プライ(1929-1998)。彼はナチス・ドイツ時代のドイツで育ち、ベルリン音楽大学で声楽を学びます。1952年、ヘッセン放送協会の音楽コンクールで優勝し、歌曲リサイタルを足掛かりに、少しずつオペラ歌手としての名声を高め、得意のモーツァルトやロッシーニの役柄を、ハンブルク歌劇場、メトロポリタン歌劇場で歌い人気者となりました。彼がとりわけ得意としたのは、「魔笛」に登場するパパゲーノで、あの、有名な「シャガールの演出による1967年、メトロポリタン歌劇場の魔笛」のパパゲーノも彼が歌っていたことは、良く知られています。また「ワーグナー歌手」としても1965年にバイロイト音楽祭にデビューし、素晴らしいヴォルフラムで人々の注目を浴びました。とは言え、彼の本領はドイツ・リート歌手であり、数々のシューベルトの録音や、ここで聴けるベートーヴェンなどは、フィッシャー=ディースカウとは一味違う味わいで、聴き手を魅了し続けています。このアルバムは、ミュンヘンの放送番組「日曜コンサート」に出演した時の録音を集めたもので、未発表音源も含まれています。1966年の絶頂期、張りのある若々しい歌声は一度聴いたら忘れることができないほどの強烈なインパクトを有していますし、1992年の練られた声もまた枯淡の境地に達しています。また、ベートーヴェンの歌曲集での、サヴァリッシュが見事なピアノ伴奏も聴きものです。
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