この絶望と静けさの中に
人はどれだけ美しさを見い出せるのか?
まるで巨大な鉄槌を振り下ろすかのように、重々しい打撃音が延々と続くこのフランスの作曲家ランチーノによる「レクイエム」の冒頭。ここを聴いただけで思わず頭を垂れてしまいたくなるような、衝撃的な作品です。20世紀になって書かれたレクイエムは、宗教的な観点よりも、より人間の存在について掘り下げるものが多いのですが、この曲もその一つの形と言えるでしょう。テキストは「めぐりあう朝」の原作者として知られるパスカル・キニャール。彼との3年間に及ぶ共同作業からこの作品が生まれたと言います。彼らは死と永遠の時間について、答えの出ることのない質問を、レクイエムという形式で聴き手に突き付けます。人生というものは「壮大なフレスコ画と神聖な式典」なのでしょうか? それとも・・・。マーラー、ブルックナーで音楽というものを高みに引き上げた名指揮者インバルによる、人間の暗部に光を当てるかのような明晰な演奏です。
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