
「あれはいったい何時のことだったのか、いったい何処だったのか、いったい誰と一緒だったのか、さっぱり思い出せないけど、あの時飲んだワインは間違いなく『シャトーマルゴー1961』これだけは確かに覚えているんだ。」 ヒグチワイン 店主談
シャトー・マルゴー Chateau margaux
Margaux
マルゴー
「マルゴーが手に入ったので飲みにおいで」と誘われ勇んで出かけてみたら、出てきたのは単なるAOCマルゴーだったと言うのは、よくあるワインのジョークですが、おごってもらって一番うれしいワインの一つがこのシャトー・マルゴーです。
失楽園と川島なおみ嬢のおかげで、現在最も人気も価格も高い第一級ワインとなってはいますが、そのあやしい魅力で、昔から熱狂的な信者を造ってきました。社会主義思想をマルクスと共ににつくったエンゲルスは「あなたにとっての幸せとはなに」と聞かれて「シャトー・マルゴー1848年」と答え、かの文豪ヘミングウェイにいたっては自分の孫娘に、シャトー・マルゴーのような女の子に育って欲しいとの願いから「マーゴ」と言う名を付けています。(いったいどんな子に育てるつもりだったのでしょう。でも、名前のおかげか成功してますよね。)私の知りあいにも熱心なマルゴー・ラヴァーがいて、子供が産まれると聞き「じゃあ、女の子だったらちび丸子、男の子だったら丸吾だね」と言ったのですが、残念ながらこれは実現しませんでした。
シャトー・マルゴーの悲劇は、自分の属する地区(コミューン)も村もすべて同じマルゴーという名前だということです。こんなワイン他にはありません。
おかげで、冒頭に書いたような悲劇が起ります。(ブルゴーニュではしょっちゅうですけどね。
お願いですからワインを注文されるとき、ジュヴィレとかピュリニーとか言った言葉を省略してワインをご注文なさらないでください。とんでもない期待を抱いてしまいますから。{気の弱いワイン屋の店主より})
名前が同じことを良いことに、マルゴー村には「マルゴー:世界で一番名高い赤ワインの地」という、いつジャロに訴えられてもおかしくないような看板が立っているそうです。
もう一つ、シャトー・マルゴーで注意しなくてはならない点は、古いものには気を付けろということです。所有者の関係か、1977年以前のものはかなり品質が落ちると言われており、そしてたぶんそれは真実です。(経験あり)ですから、どうしてもあなたが古いシャトー・マルゴーを飲んでみたいと考えたなら1961年か1953年以前に遡らなければならず、そしてそれは、あなたの家計のエンゲル係数をとてつも無く押し上げることになります。
(注)社会主義思想をマルクスと共ににつくったエンゲルスと、家計簿をつくったエンゲルは全くの別人です。混同しないように.....。トホホ私は混同していました。
店主 樋口博一著
マルゴー MARGAU 傑出
格付け:第一級(1855年)
畑の位置:マルゴー Margaux
所有者:S.C.A. デュ・シャトー・マルゴー S.C.A. du Chateau Margaux(主要株主はメンツェロプロス Mentzelopoulos/アニェリ Agnelli)
畑(赤)面積:このアペラシオンを名乗る畑は87ha だが、現在ブドウが栽培されているのは78ha
平均樹齢:35年
ブレンド比率:カベルネ・ソーヴィニョン75%、メルロ20%、プティ・ヴェルドとカベルネ・フラン5%
セカンド・ワイン
ブランド名:パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー Pavillon Rouge du Chateau Margaux
平均年間生産量:20万本
畑(白)
面積:12ha
平均樹齢:25年
ブレンド比率:ソーヴィニョン・ブラン100%
グラン・ヴァン(白)
ブランド名:パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー Pavillon Blanc du Chateau Margaux
アペラシオン:ボルドー・ブラン Bordeaux Blanc
現在の格付けの評価:現状のままでよい。
飲み頃の続く期間:ヴィンテージによるが9〜30年以上
1960年代と1970年代は凡作の続く苦しい時期だった。ピエールとベルナール・ジネステの経済的に不十分な(国際的な石油危機や1973年と1974年のワイン市場の暴落がその原因である)管理のもとで生産されたワインは、豊かさや凝縮味、個性に欠けるものがあまりにも多すぎた。
ついに1977年、マルゴーはアンドレとローラ・メンツェロプロスに売却され、直ちにブドウ畑やワインの醸造設備に惜しみない大金が注がれた。エミール・ペイノーがワイン醸造のコンサルタントとして迎えられた。こうした経済的、精神的な投入がマルゴーのワインに反映されるようになるのは数年先のことになるかもしれないと思われたが、マルゴーの底なしの偉大さを世界に見せつけるには、1978年のヴィンテージひとつで十分だった。
不幸にもアンドレ・メンツェロプロスは、苦心して育てた第一級シャトーが驚くべき優雅さと豊かさと複雑さを備えた、輝かしくも一貫したワインに大きく変貌するのを見届ける前にこの世を去った。現在は夫人のローラと都会的なやり手の娘、コリンヌがここを取り仕切っている。
この二人は少なからぬ才能の持ち主たちに取り巻かれているが、なかでもポール・ポンタイエの存在は光っている。1978年もののマルゴーはすぐに評判を勝ち取り、その後もきら星のごときワインを次々に送り出した。そのすごさ、豊かさ、バランスは、1980年代、マルゴー以外のボルドーでつくられるどのワインよりもすばらしいと言っても過言ではなかった。
よみがえったマルゴーの特徴は、贅沢な豊かさや深みのある、多面的なブーケを持つスタイルで、熟したブラックカラント、スパイシーなヴァニリン・オーク、スミレのような華やかな香りがある。今ではその色や豊かさ、ボディ、タンニンにしても、1977年以前にジネステの支配下でつくられていたワインよりかなり充実している。
マルゴーはドライな白ワインもつくっている。「パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー」と呼ばれ、ソーヴィニョン・ブランだけを植えた12ha のブドウ畑で生産される。オーク樽で発酵させ、樽の中で10ヵ月間寝かせてから瓶詰めする。雑学好きにお教えすると、これはシャトー・アベル=ローランと呼ばれる小さな建物でつくられており、壮大なマルゴーのシャトーから数百m道を上ったところにある。このメドックの最高級白ワインはキレがよく、果実味が豊かで、ハーブとオークの香りがそこはかとなく漂う。
講談社 『BORDEAUX ボルドー 第3版』ロバート・パーカーJr著より
|