
Lafite Rothschild
ラフィット・ロートシルト 2001/11/15
私には、長い間、なぜこのラフィットが四大シャトーの筆頭の銘柄に上げられるのか理解できませんでした。(本当のところは、今でも良く解っていません。)
たとえばこれは、「一番良い車は」と尋ねられたとき「ロールスロイス」と答えるような、単なるカビの生えた権威主義ではないかと疑っていました。
でも実は、私に「ロールスロイス」の素晴らしさが解らないのと同様、単に私のワインのレベルがラフィットを理解するのに達していないだけなのかもしれないと、思いだし始めております。
当店の試飲室が出来たとき、お祝いにお客様のお一人がラフィットのオールド・ヴィンテージを集めて、試飲会を開いてくれたことがあります。若いものから次々と飲み進み、'75年のラフィットを飲んだ時、「ああひょっとしてこれが言われていることなのかも」とおぼろげながらにも、片りんを見たような気がしました。なかなか本当の姿を見せてくれないのがラフィットと思います。
ラフィットの本当の素晴らしさを理解する為には色々とややこしい約束事があるそうです。
まず、あなたがイギリス人であることが、一番好ましいです。でなければ、ロシア皇帝の一族の血ぐらいはひいておきましょう。そして、あなたも、あなたのお父さんも、そのまたお父さんのお父さんも、つまり親子3代ぐらいは「私は生まれてから一度も、お金の為に働いたことはないもんね」と言い切れる程度の資産家の生まれであること。出来れば肩書きに、男爵とか子爵とか伯爵とかついていれば、なおよろしい...........。
毎日続くパーティの日々、ぽっかり予定の空いた今日は久しぶりに自宅で一人で食事です。お抱えのシェフが腕をふるった料理と先代から仕えてくれている老執事のサーヴィスでゆっくりと夕食をとります。食事が終わりお気に入りのハバナ産の葉巻を運んできた老執事に、さっきからちょっとだけ気にかかっていたことを尋ねてみます。「今日の食事はよかったよ。特にワインとの相性は最高だ。今日私が飲んだワインの銘柄はなんというのかね」老執事は静かに答えます。「シャトーラフィット ロートシルトの1975年ものでございます........。」
またまた続くパーティの日々。ある日あなたは新米のワイン雑誌記者のインタビューを受けます。「あなたは美食家としても有名なのですが、あなたが一番素晴らしいと思うワインの銘柄は?」
あなたはちょっと困った顔をして答えます。「さあて、私はあまりワインの銘柄に詳しくないし、第一覚えようともしないのだが、おおそうだ、先日自宅で飲んだワインは結構良かったように思うよ。何という銘柄だったかな。たしかラフィット・ロートシルトの75年とか言ったように思うのだが....。」
これぐらいの台詞が平気で言えるようになって初めて、ラフィツトのすごさが理解できます。
私は親子三代酒屋で働く由緒正しい平民ですから、こんな台詞は間違ってもはけません。75年のラフィットを飲んだ時には、会う人会う人に、いかにこのワインが素晴らしいか「パーカーはこう言ってるけど、僕はこう思うよ」などとしたり顔で吹聴しまくります。まるで、移動のためにほんの10メートル「ロールスロイス」の運転席に座ったガソリンスタンドのバイトのあんちゃんが、いかに「ロールスロイス」が素晴らしいか、得意そうに語るのと同じです。「ラフィット」も「ロールスロイス」も奥が深いのです。
間違っても、「データー」でとらえてはいけません。「ロールスロイス」が馬力すらも公表していないのと同様に、そんな数値はなんの意味もないのです。スピードでフェラーリに負けようが、剛性でベンツにかなわなくても、豪華さでキャデラックに及ばないとしても「ロールスロイス」こそが車の王様です。ケチャップの国のワイン評論家の数値など何の意味もありません。(特に古いヴィンテージ)単に彼が「ラフィツト」の真の素晴らしさを理解する立場にいないだけのことなのです。(すごいこと書いていますけど大丈夫でしょうか?)
げに恐ろしきは「ラフィット」なのです。
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