つるの織部屋
 


つるの織部屋

らぶ!メリノ羊。

モコモコ羊の代名詞として、広く知られている「メリノ種」。
 現在ではオーストラリアのものが有名ですが、もともとはスペインに原種がいました。

その歴史には、諸説があるのですが、キリスト生誕直後のローマで、ローマの羊と、小アジアの羊を、スペインの羊飼いが交配させたのが始まり、という説が有力です

その後12世紀になって、北アフリカの「ベニ・メリノス族」が持ち込んだ羊との交配によってさらに毛質がよくなり、これが、俗にいう「スペイン・メリノ」となりました。

このスペイン・メリノが、大航海時代の強国スペインの財源を支えたのです。コロンブスの遠征費用も当時のフェルディナンド王とイザベラ女王がメリノで得たお金で援助してあげたのだとか。

ところが15世紀になって、イスラム教徒がスペインを追われると、羊飼いや織物の技術者の多くがイスラム教徒だったことからだんだんと衰退の道をたどることとなります。

スペイン・メリノは1786年まで門外不出の扱いで、国外に持ち出そうとした者は死刑、という時代もあったぐらいなのですが、18世紀にはついにオーストラリアにたどり着き、より繊細で、より白い品種に改良されます。
独特のヌメリ感があり、弾力性に優れ、水をはじく性質なのに湿気はよく吸収する・・・。紡ぎやすく、フェルトにも最適。繊細な光沢があるのに、コシがあるので、とても用途が広い羊毛です。

(参考資料: 「羊毛文化物語」/山根章弘 「羊の手帖」/スピンハウス・ポンタ)

そんなメリノを使ったネックウェアは→こちら。


おつるのお道具 "小管/杼/ひご"

織り機に張られた経(タテ)糸に、緯(ヨコ)糸を入れる道具が小管と杼です。
緯糸を巻く、7センチほどの小さな管を小管(こくだ)といいます。(まんまやん!)
私が学生だった頃はまだ、若い篠竹で作られた小管が容易く手に入っていたのですが、細工に人件費がかかるのか、年々プラスティック製に取って代わり、今では、竹製の新品は全く手に入らなくなってしまいました。プラスティック製は巻いた糸が高速回転するときに静電気が起こって、なにかと都合が悪い・・・。
そんな織り手の気持ちを察してか、ちょっとお高いのですが、木製のものを作ってくれた業者さんもあります。

機織りで緯糸(よこいと)を巻いた小管をセットして経糸の間を右から左、左から右と飛ばすものを「杼(ひ)」といいます。
英語ではシャトル。(行ったり来たりする宇宙船だからスペースシャトルなわけですね)

小管に竹の細い芯を通し、それを杼の内側の小さなくぼみに差し込むと小管がくるくる回る仕掛けになっています。
この竹の細い芯を「竹の杼の子ども」= 「たけひご」、と呼んだんですねー。
いまは、金属製でバネ内蔵、伸縮機能付きのひごもあります。


なに、なに、『生皮苧』???

『生皮苧』、なんと読むかご存知ですか?
「なまがわちょ」??なんだか、とっても血なまぐさい字づらと響き。工房でも大騒ぎになったことがあります。

正解は「きびそ」。正体は「絹糸」です。

といっても、皆さんが想像するであろうシルキーな印象はみじんもありません。
ごわごわの、「白いシュロ縄か」と思うぐらいの、野性味あふれる糸です。繭から糸を取るときに出る、クズの繊維を集めて作られます。
この糸の存在は、織りを始めた頃から知ってはいたのですが、付き合いのあった糸問屋さんたちが、ほとんど「キビソ」と綴っていたので、まさかこんなスペルだったとは、数年前まで知りませんでした。

あまり知られていないのですが、灰汁(あく=強アルカリ水)で精錬する前のナマの絹糸はどれも、繊維の表面がセリシンという蛋白質で覆われているのです。これを精錬で取り除かないと、あのつやつやの絹の感触にはなりません。

『生皮苧』の「苧」は訓読みで「カラムシ」と読みますが、これはイラクサ科の麻のこと。(カジュにも夏はたくさん生えますよー。) なるほど、こうしてみると、「表面がカラムシのような風情のナマ糸」と、納得できますね。ゴワついてはいるのですが、シュロ縄などとはちがい、素手で作業しても手が荒れるということはありません。反対になんとなく、肌がなめらかな感じになってきます。今、一番のお気に入りの素材です。

ちなみに、「苧」の字ですが、「そ」のほかに「ちょ」とも「お」とも読みます。
江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕は「画図百鬼夜行」のなかで、「苧うに(おうに)」という妖怪を描いています。「うに」は泥炭のことで、まさに、ばさばさの髪を振り乱した黒々した妖怪です。(写真)

昔は、乾燥させた「苧がら」は焚きつけなどに使われていたので、どの家の台所にもあったそうです。


市松模様

日本には、名前のついた織り模様がたくさんあります。
浮き織、トンボ、袋織り、沖縄から伝わった、道頓(ロートン)、花織り(ハナウィー)・・・などなど。どれも、制約の多い織り機の機能を研究し尽くした、先人の知恵の結晶です。

その中に通称「市松」と呼ばれる織り方があります。

市松は、コントラストの強い2色の正方形を交互に配した伝統柄で、ふすまにも、着物にもよく使われていますよね。シンプルですが、インパクトがあり、メッセージが込めやすいなぁと思います。

初めてこの柄をメジャーにしたのが江戸時代の歌舞伎役者、初代・佐野川市松で、舞台でこの模様の袴(はかま)をはいたことから、当時のファッション界で大流行します。 それ以前にもこの柄は存在していましたが、市松が有名にするまでは「石畳(いしだたみ)」というのが一般的な呼び名でした。

周知のように、歌舞伎と能は、江戸時代のファッションを常にリードしていて、柄だけでなく、色の名前などにも歌舞伎役者の名前が多く見受けられます。自分のファッション・センスが後世まで語り継がれるのは、 役者冥利と申せましょう。



おつるのお道具・筬(おさ)

織物の経糸(たていと)の密度と幅をきめるのが「筬(おさ)」です。
日本の織り機では、この筬が大変精巧にできていることが大きな特徴です。世界でもその精巧さは最高水準。
竹を薄く削った羽(は)=リードが決められた密度にきれいに並んだクシのようなものです。

日本の機でこの筬が発達した背景には、竹が身近にあったことと、優れた刃物をつくる伝統技術があったことが挙げられます。

この筬の密度が細かければ細かいほど、薄くて繊細な織物が織れるわけですが、そのためには竹のリードを正確に薄く削る必要があります。日本の伝統的な刀鍛冶の技術は、このリードを削れる優れた刃物をも造り出していました。
私は今でも織るときに尺寸を用いています。和裁師と織人だけが使う「鯨尺(くじらじゃく)」では1寸が3.78センチ。(ちなみに、大工さんが使う曲尺は一寸は3.03センチ。鯨の一寸のちょうど8割。)
10寸で1尺です。この1寸の中に何羽あるかで筬の番号が決まっています。
例えば「20羽の筬」なら1寸に20のすき間がある筬、ということです。慣れてくると、カラダにやさしい単位なので、なかなか使い勝手がよろしい。着物を織る場合によく使われる筬は、45 - 60羽の筬。幅は1尺5分程度です。つまり約900〜1200本ほどの経糸がセットされるわけです。

残念ながら、ついに竹の筬は新品では手に入らなくなってしまいました。技術を受け継ぐ人がいなくなってしまったことと、手間がかかるので値段が高く、安いステンレスの筬にとってかわられたことが理由です。
でも、ステンの筬は羽が混むと重くなってしまうので、打ち込みに余計なチカラがかかってしまって、繊細な織りの場合、あまり都合がよくありません。

今、鎌倉/逗子/葉山の竹林は竹の利用がなくなって、荒れ放題。近隣の雑木林にも様々に害を与えているとききます。
日本は、ずっと竹を上手に生かすことで、美しく豊かな暮らしを作ってきました。それを加工する「手間」も楽しみとしながら。

「竹が成り立つ」で「筬」。 その心、取り戻したいものですね。


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